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福岡地方裁判所 昭和56年(ワ)2577号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

原告は、川内正行ひいて金鎭録に対する金七〇〇〇万円の債務が帝国観光と被告の連帯債務であるとするなら、抵当権設定金銭消費貸借契約証書、債権譲渡契約書、同通知書、抵当権設定登記における被告の単独債務である旨の表示は被告と川内両名の通謀虚偽表示であるから、被告の単独債務であると信じて債権仮差押、本差押に及んだ善意の第三者である原告に対しては単独債務の無効即ち連帯債務であることをもって対抗することができず、したがつて連帯債務者である帝国観光の弁済をもつて被告の債務消滅を主張することはできないと抗争する。

前記一及び二で明らかにした各事実に<証拠>を総合すると、

1 まず、本訴にいたるまでの事実関係は次のとおりであること、すなわち、(1)昭和四九年中に帝国観光と被告は森山茂樹から金七〇〇〇万円を連帯して借受け、(2)昭和五〇年中に川内、時安らは右連帯債務を代位弁済して帝国観光、被告らの債権者となつたが、川内は被告との間で抵当権設定金銭消費貸借契約証書(甲第一号証)を作成し、これを原因証書として被告所有不動産に抵当権設定登記をうけたこと、(3)昭和五一年中に川内は右抵当権付債権を金鎭録に債権譲渡したが、同人は昭和五二年中に長崎地裁佐世保支部に対し、右抵当権にもとづき被告所有不動産の任意競売の申立をなしたので帝国観光、被告、末永一行らは森山、川内、金鎭録ほかを相手取り東京地裁に前記債務不存在確認等請求の訴を提起したこと、昭和五五年一二月二五日に前記和解が成立し、昭和五六年三月一六日和解金の支払がなされたこと、(4)他方、原告は昭和五三年五月一六日金鎭録に金一億円を貸付けた旨の公正証書を有していたが、昭和五四年一一月五日福岡地裁において金鎭録の被告に対する金七〇〇〇万円の債権のうち金二二〇〇万円につき債権仮差押決定を得、同五六年九月四日同地裁において債権差押命令を得てその取立のため同年一〇月一二日本訴を同地裁に提起したものであること、

2 ところで帝国観光というのは代表者末永一行が昭和三八年に設立したもので東京に本社を置き、各地にゴルフ場、ホテル、ボーリング場等を経営する会社であつたが、既に昭和五〇年初め頃不渡手形を出して倒産した会社であり、被告は末永一行が昭和四三年に全額出資して設立した有限会社であるが、開拓者が離散した開拓跡地を将来ゴルフ場にするつもりで入手し、当面、農業生産法人として牧場にしていたものであるから企業利益を挙げることを目的としたものではなかつたこと、帝国観光は本社が東京にあり、代表者の末永も東京に居住していたので九州地区の事業や関連企業のため九州地区本部を長崎市に置いて事業を統轄していたこと、被告は昭和四九年頃に農業生産法人の性格上代表者が東京在住の末永では困るという県の指導もあり、もと農協組合長をしたことがあり、末永のもとで働いていた林善寿が名目的な代表者に就任していたが、右のような事情から被告の社印、代表者印等は一切長崎市にある本部で保管され、末永の事前、事後の承諾のもとに本部責任者が自由に使用できる仕組みになつていたこと、前記のごとく昭和四九年中に帝国観光は当時造成中であつた愛野ゴルフ場の資金等にあてるため、森山茂樹から金七〇〇〇万円を借受けたものの、弁済ができず、川内らがその代位弁済をなしたが、それらの手続一切は末永の包括的承諾のもとに細目については本部責任者の裁量でなされたこと、そのため被告代表者林善寿は右借入等に際して抵当権設定金銭消費貸借契約証書がつくられ、被告所有不動産に川内のため抵当権が設定された等の事情は知らなかつたが、前叙のいきさつからこれに反対することができるような立場にはなかつたこと、

3 昭和五二年中になされた金鎭録の被告所有不動産に対する抵当権実行に対抗して末永一行は帝国観光、被告らと共に東京地裁に債務不存在確認等の訴を提起して争つていたが、昭和五六年三月一四日末永は林善寿(現在の被告代表者)に対し被告の出資持分全部(一〇〇口)を代金一億二八五〇万円で売却することにしたので被告は名実共に林善寿の支配するところとなり、同人は本訴についても実質的に関心を持たざるを得なくなつたこと、それで右代金の支払を内金六八五〇万円は林が永年末永のもとで働いた退職金をもつて充当し、金三五〇〇万円は林が支払い、残金二五〇〇万円は本訴解決のときに支払うが、敗訴の場合には別途協議することに定まつたこと、

以上のとおり認められ、他に右認定に反する特段の資料はない。

右認定のいきさつに照らすと、川内ひいて金鎭録に対する前記金七〇〇〇万円の債務を被告の単独債務であるように表示した抵当権設定金銭消費貸借契約書(甲第一号証)、債権譲渡契約書(甲第二号証)、同通知書(甲第三号証)、抵当権設定登記(乙第六、第七号証)をもつて川内と被告の通謀虚偽表示とまで解することは困難である。けだし、前叙のいきさつからして抵当権設定金銭消費貸借契約証書は川内側の要求する抵当権設定のため帝国観光グループ九州地区本部責任者が昭和五〇年中に作成したものであるが、これを原因証書として同内容の登記がなされているのであるから同人らに通謀虚偽表示の認識があつた筈はなく、当時同人らに通謀虚偽表示をせねばならないような事情や、これに関して問題視しなくてはならない第三者(原告の関与は早くても昭和五四年のことである)の存在等はなかつたことからしても右認識のなかつたことは明らかであるからである。なお、債権譲渡契約書、同通知書はその作成に被告側の関与はないから、これらをもつて被告の通謀虚偽表示の証拠とはならない。

(麻上正信)

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